日本実験動物技術者協会 関西支部

Japanese Association for Experimental Animal Technologists Kansai-Branch

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第五回中国北方八省実験動物科技年会参加報告
(第二報・大会本編)


支部交流担当・坂本 

 第五回中国北方八省実験動物科技年会は大会本番を2007年8月29日に迎えた。本報では大会本番の様子についてレポートする。

 今回の大会は公式日程が8月28日〜31日となっている。いわゆる大会本番は29日の1日だけであるのに日程は4日間である。この設定に関して中国医科大学の懇意な先生に聞くと、これは中国のスタイルで、1日目は広い中国の各地から訪れる人を出迎える日、2日目は大会本番とし、3日目は『参考視察』と中国では表現するが、大学その他の施設見学を希望する人達にはその機会を、開催地を観光したい人には慰労も兼ねて主催者はその対応を、そして4日目には広い中国各地へ帰ってゆく人を見送る日という設定としているとの事。大会本番が2日間に渡るときには5日間の日程になるようである。この『参考視察』であるが、我々は手狭な市内から郊外へと移転すべく、急ピッチで建築中の大連医科大学新キャンパスを訪ね、建築中の実験動物棟の見学と、共に参加された慶応義塾大学名誉教授の前島一淑先生の交渉の成果として、通常であれば外部来訪者には公開されないであろう地元製薬会社を見学させて頂いた。大連医科大学新キャンパスならびに、地元製薬会社訪問記は別な機会にレポートさせて頂く。

 北方八省は内蒙古自治区、黒龍江省、吉林省、遼寧省、北京市、天津市、山東省、河北省である。本大会の参加者は、268名(訪中団含)、上記八省市以外に、上海市、四川省、江蘇省、江西省、雲南省、広東省、甘粛省からも多数の参加者が来ていた。演題発表数としては計85演題とされているが、これは2007年度の≪中国比較医学雑誌≫、第8号に掲載された論文等の数を指しているようである。すなわち、≪中国比較医学雑誌≫、2007年第8号は『第五回中国北方八省実験動物科技年会』号的な位置づけとなっているようであり、よって演題数は85題とカウントし、その中から当日は一般演題として9演題が口頭発表として設定されたようであるが、この辺りは私なりの解釈なので正しくないかもしれない。池渕支部長、浦野教授、私の発表はこの9演題の中の3題という事になる。はたして残りの6演題が発表申し込みを経て採否判定された上で選ばれる設定であったのか、主催者側が演者を選定指名する設定のいずれであったのかまでは確認出来なかった。いずれにしても、今大会のホスト役である遼寧省実験動物学会としては、前年夏に日本の地方実験動物研究会等との交流を打診し、その結果として九州実験動物研究会、JAEAT関西支部との交流が実現し、今大会にこの2団体からの発表と、16名の訪中団が結成された事は中国医科大学の王太一教授ならびに、王禄増教授のご尽力によるものであり、面目躍如といったところである。

 大会進行は下記のとおりである。

 8:30〜 8:35 開幕式
 8:35〜 8:45 大連市科学技術局   施中岩   副局長 挨拶
 8:45〜 8:50 大連医科大学     趙 杰   副校長 挨拶
 8:50〜 9:00 日本参加団 代表 慶応義塾大学名誉教授
                  前島 一淑 教授  挨拶
 9:00〜 9:15 アジア実験動物連合会 代表
                  笠井 憲雪 教授  挨拶
 9:15〜 9:30 休息

 9:30〜10:30 実験動物法制化管理及び動物福祉について
                  栄端章   教授
10:30〜11:30 新時期、新使命―科技社団における未来科学発展の役割
                  秦 川   教授
12:00〜14:00 昼食
14:00〜15:30 21世紀へ向けての科学と生命科学への挑戦
                  劉一農   教授
15:30〜18:30 一般演題
       @ 胚胎冷凍技術における遺伝子組換えマウスの保種
          中国医科大学実験動物部 周生来 氏
       A イヌを用いた化合物の吸収確認評価モデルの作製
          大鵬薬品工業  池渕 一也 氏
       B 実験動物環境モニタリングにおける知能器材の選抜と応用
          天津実験動物センター 朕志宏 氏
       C 615マウスの染色体型とG帯分析
          大連医科大学実験動物部 李紅霞 氏
       D ヒト眼科用検査装置を動物実験に用いる為の観察台と固定器の考察
          千寿製薬  坂本 雄二
       E Establishment of a KLK1 Transgenic Rat Model
          中国医科大学実験動物部 朕志紅 氏
       F 日本実験動物界の現状
          熊本大学  浦野 徹 教授
18:30〜21:00 懇親会

じっくり読まれると、一般演題が9演題と記していたのに、7演題であることに気がつくと思う。理由の第一番目は演題が1題取り下げられた事である。これは日本でも時に遭遇する。我々が驚いたのは第二番目の理由である。今回の大会では午前がいわゆる記念・教育・招待講演の部として設定されていた。前記の大会進行の項で、午後の最初に記されている劉一農教授の『21世紀へ向けての科学と生命科学への挑戦』は、当初は午前の最後の予定であった。しかしながら、タイムスケジュールに少々無理があったようで、劉一農教授の一つ前の秦川教授の講演が終わった所で昼となってしまった。主催者側はここで、劉一農教授の講演を午後の第一番目に変更することとし、昼食に入った。中国の礼なのだと思うが、昼の時間が2時間確保されていて、午後は14時から再開! ここで劉一農教授の講演となるのだが、これが講演ではなく、事実上の授業と化して延々と“講義”が続く。当初プログラムでは50分の設定であったが、終わってみれば90分の熱弁。このずれが尾を引き、最終的には懇親会開始に間に合わないという事で最後の演題はCutとなってしまった。最後の発表予定であった演者が名前を呼ばれて立ち上がり、皆で拍手して終わり!これは演題申し込みを受けて採択し、発表をしてもらう日本のシステムでは出来ない事であろうと感じた。尚、参加された日本の方で、過去に中国の実験動物関係の学会に何度か出たことがある人は、同じ状況を体験した事があるという事で、中国ではアリの設定なのであろう。

 一般演題以外の主要な演者の講演内容について記す。

  1. 大連市科学技術局 施中岩 副局長 挨拶
    大連市で本大会が開催される事に対しての祝辞を述べられた。
  2. 大連医科大学 趙 副校長  挨拶
    今大会の実質運営校の立場として祝辞を述べられた。
  3. 日本参加団 代表 慶応義塾大学 名誉教授 前島 一淑 先生挨拶
    今大会の開催をお祝いする祝辞と、日中の実験動物関係者の友好と発展を願う言葉を述べられた。
  4. アジア実験動物連合会 代表 笠井 憲雪 先生挨拶
    笠井教授はAFLASの副会長の立場として、来年北京で開催される第3回AFLAS大会の紹介をされ、続いて来年仙台で開催される日本実験動物科学技術2008の紹介をされた。
  5. 実験動物法制化管理及び動物福祉について  栄端章 教授
    中国における実験動物の法制化管理の現状と今後に関して、中央、地方の分担や、その整備状況について説明された。また今後の動物実験を行う技術の標準化を図ってゆく構想などについても話された。
  6. 新時期、新使命―科技社団における未来科学発展の役割  秦川 教授
    秦川教授は女性の先生であった。中国実験動物学会・業界について、管理体制、役割、活動などについて紹介された。
  7. 21世紀へ向けての科学と生命科学への挑戦 劉一農 教授
    21世紀の科学研究は、多面性と多分野での合同研究であることなどについて話され、国内に留まらず、世界と連携しつつ、かつ、世界を相手に負けない研究をして行かなければならないといった事を話された。

以上のような内容であった。本大会は国際学会ではなく、中国国内の地方大会である。よってプログラムもさることながら、講演は全て中国語であるため、まことに申し訳ないが、講演内容に関しては上記程度の内容の把握に留まってしまった事をお詫びする。

 前島教授、笠井教授、浦野教授は中国医科大学の客員教授としての立場もあり、中国医科大学との関りは深い。実際に中国医科大学実験動物センターの入り口を入ると、三人の先生の写真が壁に飾られている。今回も我々とは違い、勝手知ったる・・・で、動じる事無く各々のプレゼンをこなされた。

話は午後の部へと進む。 

 さて我らが池渕支部長である。当日の大会進行を見返して頂ければ分かると思うが、池渕支部長と私、そして浦野教授は午後の発表である。この3人の中で池渕支部長は最初の登場となる。先にも記したが、午後の第一番目に変更になった劉一農教授の講演が予定時間を過ぎても全く終わる気配がない。講演の域を通りこして、まるで授業の様相を呈し、熱く語る時間が続く。横目にチラリと支部長を見ると緊張が増しているのが分かる。タダでさえ緊張するのに、そこへ持ってきて何時出番が来るか分からないというのは、いわゆる“生殺し”状態であり、この辺りとても辛かったと想像する。ようやく劉一農教授の講演が終わり、一般演題の部に進み、2番手として支部長の登場となった。ここで一同驚いた! なんと支部長は第一報でも記した『中国語でしゃべらナイト』マイブームの成果として中国語でプレゼンをスタートさせた。さすがに発表全編を中国語という秘技にはならなかったが、冒頭の挨拶を全て中国語でこなし、一区切りついたところで場内一斉に拍手喝采となった。拍手が収まり発表本編となるのだが、スライドを見るだけでもかなり内容が把握出来るように工夫している事に加え、九州組から参加の(株)新日本科学の劉艶薇(Liu Yanwei)さんの通訳もあって、池渕支部長の発表は大成功の内に終わった。ちなみに劉艶薇(Liu Yanwei)さんはJAEAT九州支部所属で今回の訪中でも大変お世話になった知的でユーモアのセンスもある、とても素敵な女性である。

 池渕支部長の見事な発表から二題おいて私の発表となる。第一報を読んで頂ければ分かると思うが、私は池渕支部長とは別な意味で発表前に緊張していた。午前の前島教授、笠井教授のお話の最中にも度々中座しては、白酒の飲み過ぎに伴って起こる一連の儀式をこなし、フラつきながら席に戻り、止まぬ頭痛に頭を抱え、喉の渇きに水を飲んでは再び気分が悪くなり、再度席を立つという事を繰り返していた。そのような状況で支部長の見事な発表と拍手喝采を目の当たりにした時には、自分の不甲斐なさで壇上に上がる自信は失せていた。英語圏でない事から私も相応にスライドは工夫し、ある程度は画面を見るだけでも内容が分かるようにしていた事を密かに喜びながら、ここでも劉艶薇(Liu Yanwei)さんの通訳に助けられて何とか発表を終える事が出来た。ちなみに記すまでもないが、日本側発表者は全員スライドの文字は中国語に訳している。

 私の発表から一題挟んで、日本側発表者の最終ランナーとして、浦野教授の発表となった。劉艶薇(Liu Yanwei)さんの通訳を交えながら、場数を踏んでいる浦野教授は、午前の前島教授、笠井教授と同様に堂々たる話しぶりで発表を終えられた。

 先にも記したように、当初は浦野教授の後に中国の方が発表する予定だったのだが、進行役の先生から、『時間の関係で最後の発表は止めます』 というアナウンスがあり、演者が紹介され、その場で立ち上がって皆から拍手を浴びて大会は終わった。

 大会本編終了後は懇親会となった。懇親会は大連にある実験動物の機材メーカーの1社がスポンサーになる形で費用がまかなわれ、大会参加者のみならず、参加者の家族も参加OKということで、どこにこれだけの人数が隠れていたの?と思うほどの参加者で大盛況の内に終わった。

 最後に、中国では実験動物の品質向上、飼育環境の整備、動物実験の精度向上など、国を挙げて取り組み始めていると感じた。それは午前の秦川教授の話においても、現在、そして今後の構想などが語られ意気込みを感じる事が出来たし、見学に行った建築中の大連医科大学の動物施設を見ても、これからの中国の実験動物界は急速にレベルアップするのではないかと感じた。その過程には、サイエンスとしての実験動物学の向上も必要だが、施設管理のレベルアップ、技術者の知識、技術の向上が欠かせないと思う。この辺りにおいて我々、日本実験動物技術者協会(関西支部)が彼等と交流をもつ事は、貢献できる部分が沢山あると思えるし、逆に、相応のレベルに到達している我々が彼らの取り組む過程に接点を持つ事は、今の我々が見落としている何かを気づかせてくれる事も沢山あるであろうと思う。

 肩に力を入れずに、これからも交流を進めてゆきたいと思う。最後に、本大会全体の雰囲気としては、とてもアットホームで和やかに進行が行われていた。到着直後や発表前には緊張もしたが、終わってみればリラックスした中で滞在を過ごせた。この辺り、雰囲気としては実技協の総会にも似ていると思う。リラックスできた理由はその辺りも関係していると想像する。出来れば次回は来年に仙台で開催される日本実験動物科学技術2008大会で彼らと再会したいものだ。

謝謝