日本実験動物技術者協会 関西支部

Japanese Association for Experimental Animal Technologists Kansai-Branch

中国遼寧省実験動物学会との交流
について(詳報)


文責:支部交流担当・坂本 

 遼寧省と聞いて直ぐにはピンと来ない人でも、旧満州といえば分かる人も多いのではないでしょうか。池渕支部長と坂本は、2005年から遼寧省瀋陽市の国家瀋陽新薬安全評価研究中心(国立瀋陽新薬安全性評価センター)ならびに中国医科大学(同じく瀋陽市)の方々と交流を持って来ました。

 この縁は実験動物の大家であられる慶應義塾大学名誉教授の前島一淑先生が、JAICAプロジェクトの中で中国における動物実験施設のレベル向上のための指導にあたって来られた取り組みのお手伝いをさせて頂いたのがきっかけでありました。そして昨年8月にこの取り組みに関わった人達(熊本大学・浦野教授、東北大学・笠井教授他)で瀋陽を訪ね、取り組みの総仕上げとなる交流の場を持ちました。この席で中国医科大学動物実験施設の王教授より、遼寧省実験動物学会と日本の地方で活躍している実験動物研究会との交流を行って行きたいという提案が出され、当時の関西支部長、事務局担当であった私達は、日本には実験動物の技術者の集団もあるのですよと、実技協ならびに関西支部の事を紹介しました。王教授は是非、実技協関西支部とも交流をして行きたいと言われました。そこで、この中国医大側の意向を持ち帰り、支部幹事会での予備検討を経た上で、昨年11月に再度、私が仕事で中国を訪れた際に瀋陽を訪ね、実技協・関西支部と遼寧省実験動物学会の交流についてお互いを詳しく紹介し合いながら、その可能性を探る面談の場を持ちました。その際に、王教授より、今回の交流の申し出における意図に関して主に下記の5点を挙げられました。

  1. 遼寧省実験動物学会との交流にあたっては、その窓口として中国医科大学動物実験施設がその役をしますとの事です。従って、基本的には遼寧省実験動物学会と言いながらも、当面は中国医科大学動物実験施設を通しての交流のスタイルとなる。
  2. 自分達が実験動物に対して、どのような活動を、どのようにして進めて行ったらよいのかを日本との交流を通して参考にして行きたい。
  3. 日本の実験動物技術者との交流を通して、中国の実験動物に携わる人達が様々な事に気付きと刺激を得る場を提供したい。
  4. (可能であれば)年1回は日本の全国規模のイベントを訪れて、会の中身を体験したいという事、さらには見学を許してくれる施設があれば日本の動物実験施設をその日程中に見学し、日本の研究者や技術者と接する機会を持ちたい。
  5. (可能であれば)日本側からも北方八省実験動物科学技術年会等に来て中国の活動を実際に見て欲しい。このような相互を訪ねる事は渡航費等、相応の費用なども発生する為、効率よくする為にも大きなイベントの機会を利用したい。

中国はGLPの主要な国での国際ハーモナイゼーションにも加わっていませんし、実験動物に関しては進んでいる施設と(向上心がある施設と言い換えても良いかもしれません)、そうでない施設にとても大きな差があるようです。また、AFLASなどの活動もありますが、実際には北京、天律、上海といった大きな都市だけが進んでいて、国全体や地域としての実験動物に関係した活動といったものは、まだ始まったばかりといえます。先に記した北方八省実験動物科学技術年会も、今年で第5回目との事でまだまだ途上の状態です。今回訪問してじっくり話をして分かったのですが、王教授のもっとも望んでおられた事は、先々の事よりも自分達がどのような活動を、どのようにして進めて行ったらよいのかを日本との交流で参考にして行きたいという事、そして年1回は日本のイベントを訪れて、会の中身を体験したいという事、さらには見学を許してくれる施設があれば日本の動物実験施設をその日程中に見学したいという事が主たる目的であるとの事です。ちなみに王教授は今年開催される我々、実技協の名古屋全国総会に来日する意向を持たれていましたが、お仕事の都合がどうしてもつかず来日を断念されました。

これに対して私は、関西支部と実技協本部のHP情報を見せながら、JAEATの全体像、そして、その中での関西支部について簡単に説明し、我々(関西支部)が仮に交流を持つとしたら、このようなスタンスになるであろうという事を説明しました。

  1. 交流はJAEAT全体ではなく、関西支部として行なう。
  2. この交流で我々が訪中、あるいは北方八省実験動物科学技術年会の大会に参加するという点に対しては、ポジティブには考えて行きたいが費用の規模や、経費運用の考え方などあるので確約は出来ない。
  3. 仮に中国側が来日する場合には、講習会等の見学・参加は別として、研究発表会のようなイベント(支部総会や地方大会の事)への参加は支部としての開催では小規模なので、推奨は全国総会への参加が望ましいと思う。
  4. .中国医科大学もしくは遼寧省実験動物学会、あるいは北方八省実験動物技術年会として、関西支部のイベントあるいは関西支部を通して全国総会などに参加の為に来日するなら渡航費用は自身負担となる、イベント参加費や見学などに関しては可能な限り配慮と、その機会を作り出す為の協力ならびに、来日中のサポートは出来るであろう。
  5. 全国規模のイベント参加の場合、日本にはJALASとJAEAT等があるので、JAEAT以外の団体のイベントへの参加の場合にはそれぞれの団体の方と独自に交渉して頂く事になるであろう。
  6. 関西支部としては実際に人の移動(訪中)や資金の投入の発生に関しては進捗を見守りながら判断して行きたい。しかしながら支部会報(支部ニュース)の中国医大への送付や、中国側からの種々の問い合わせ等に対しての対応可能な情報提供等、負担・トラブルの少ないと考えられる事はさせて頂く事は可能と考える。
  7. 当面は1年毎に状況を振り返りながら、成果を確認して行きたい。そして3年を1つの区切りとして取り組みの総括を行い、以降の継続の是非は判断してはどうかと考える。

王教授からは、面談を通して、双方がこの内容に異論なければ前向きに進めて行きたいとのコメントを頂きました。彼等には、我々関西支部の支部ニュースをPC画面上で見せました。この支部ニュースの発行ならびに、その中の情報などについて大変興味を持たれていました。それは、遼寧省実験動物学会としても、北方八省実験動物学会の集まりとしても支部ニュースというような定期的発行物は出しておらず、会員が定期的に情報を入手する術も現在は充実していなければ、講習会等のイベントの能動的な開催もあまり行なっていないとの事でした。従いまして、我々の支部レベルの活動内容でも、彼等にはとても参考になるようです。1つの省が日本の結構な面積に相当するような国ですので、そのような大国を相手にするのは少々臆してしまうような感もありますが、冷静に考えてみれば、最初の取り掛かりは1つの省での1大学とのやり取りから始まり、印刷代と郵送費程度の出費で済む事の範囲から始めて、我々からの人の訪中とか費用の発生することは様子をみながら是非は判断してゆきましょうという内容ですので、あまり大きな負担にはならないと考えました。これから我々の背を追って取り組みを進めて行く位置に居る国の方々と交流を持つ事は、ある意味で多少煮詰まった感のある我々がついつい見落として通り過ぎてしまったり、軽視している事を気付かせてくれる事もあろうかと思います。中国で散見する知的財産の取扱い等の問題、その他ネガティブな面を想像すれば幾らでも出てくるかもしれませんが、一方で能動的にこのような機会を活用しようと思えば幾らでもポジティブな面も見えてくると思います。

このような意向を支部幹事会で共有した上で去る3月の関西支部総会でも、遼寧省実験動物学会との交流を提案させて頂き、皆さんの理解を得る事が出来ました。交流は肩の力を抜いて、リラックスした中でお互いが出来る事を出来る範囲でやって行きましょうという方針です。この交流の経過等に関しては随時皆さんにもご報告させて頂くと同時にご意見を伺って行きたいと思っています。支部ニュースや地方大会、支部総会だけでは情報提供できる場が少ないかもしれません。必要に応じて支部ホームページでも、Webの特色を活かした情報提供をして行きたいと思っております。

第5回 中国北方八省実験動物科学技術年会参加のお誘い